「……そうか。俺が留守にしてるうちに、お前も志王も大人になったんだな」


大人になった……大人はあの感覚を「大人になった」と表現するのだろうか。
思わず真剣に考え込んでしまった。


だが、お兄ちゃんはそんな私の変化には気付かず、続けた。


「志王は俺の生徒だったんだ。でも色々あってな……俺は自分の弱さに負けてしまった。だから、逃げたんだ」


「……逃げたって……どういうこと……?」


お兄ちゃんは、学校を辞めさせられたことがショックで失踪したのではないのか。


お兄ちゃんは言葉を探すように視線を彷徨わせて、静かに語り出した。


「3年前……志王に恨みを持つ他校の連中が、志王の弟を連れ去って、助けたければひとりで来いと志王を誘き出したんだ。志王はひとりで弟を助けに行って、それを知った俺は志王を追いかけた」


さすがの銀星も当時はまだ今ほど喧嘩慣れしていなかったみたいで、何十人という不良を相手にして大怪我を負ってしまったという。


お兄ちゃんはそれを見て我慢できず、教師という立場も忘れて不良達をボコボコに殴り、何とか銀星の弟を助け出すことに成功したらしい。


だが、事件を知った教頭はいくら生徒を助ける為とはいえ、お兄ちゃんが暴力を振るったことを良く思わず、お兄ちゃんを懲戒免職にすると宣言した。