「……怖くねぇのか?」


「何を今更。あんたみたいな凶暴な獣を飼い慣らしてる私が、怖いものなんてあると思う?」


胸を反らして堂々と言うと、銀星はやっと笑顔を見せた。


「……確かにな。お前は、そういう女だった」


「やっとわかってくれた?」


「ああ。俺の負けだよ」


「あんたに負けを認めさせたってことは、私が次の王になるんだね」


私は微笑みながら冗談を言った。銀星と、こんなふうに軽口を叩き合う関係にまでなれたことが、嬉しかった。
だけど銀星は私の冗談には答えず、私の頬に手を添えて顔を近付けた。
反射的に目を閉じた私の唇に、柔らかいものが触れる。


あたたかくて、優しいキスだった。


唇が離れて閉じていた目を開けると、抜けるような青空をバックに銀星が子供のように笑っていた。


その瞬間、私の世界が初めて色をつけた気がした。
どこにでもある海と、空。それが、今まで見たどんなものよりも美しく、キラキラと輝いて見えた。


……こんなに綺麗なものが、この世界にあったんだ。
銀星に出会わなければ、きっと気付かないままだった。


銀星は私に優しさを、切なさを、そしてこの世界の本当の景色を教えてくれる。