アイザックがどうしてここに!?

 私がぽかんとしていると、アイザックがまっすぐ私のもとへとやってきた。

「さっき、シルフィが血相変えて走っているのを見かけて。だから、なにかあったんじゃないかと急いで追いかけてきたんだよ。大丈夫か?」
「私は大丈夫。もう、解決したわ」
「そうか、ならいい」
 アイザックがほっと息を吐き、私の頬に手を伸ばしかける。
 けれど、ぬっと横から伸びてきた手が、彼の手首を掴んだ。

 ゆっくりと顔を向けるとマイカの手!? 今にも舌打ちをしそうな勢いで、アイザックを睨んでいる。

 一方アイザックも、掴まれていた手を無理やりほどくと、無言でマイカを見ている。

 え、なんで? 見えない火花でも散っていそう……。ふたりは顔見知りのはずだけれど……。

「マイカ、邪魔をするな」
「それはこっちの台詞ですわ。せっかく、念願叶ってシルフィ様をお茶にお誘いするところでしたのに!」
 マイカはアイザックを一瞥すると、コホンと軽い咳払いをし、姿勢を正すと真っすぐ私の方へ体を向けた。

「シルフィ様。さきほど助けていただいたお礼に、お茶を――」
「おーい、大丈夫か?」
 マイカの言葉を遮るように、廊下から声が届く。

 あの声はウォルガー? ややあって、開けっぱなしの扉からウォルガーが入ってきた。

「あれ? マイカもいたのか」
「今度はウォルガー様ですか!? なんで二度も邪魔者が入るわけ? ……もしかして、日頃の私の行いが悪いの?」
 地団駄を踏むマイカを落ち着かせようと、肩に手をかけた時、外から十五時を告げる鐘が聞こえてきた。

 あっ、大変。今日、孤児院を訪問する予定があるから、早く帰らなきゃならなかったんだわ。

 ノブレス・オブリージュ。この世界でも身分の高い者にはそれ相応の責務が生じる……という考えがあり、貴族は孤児院に寄付などを行なう。
 私の家でも定期的に孤児院を訪問し、必要なものを伺い用意することが習わしとなっていた。

「ごめんなさい。今日、お父様と一緒に孤児院を訪問する予定になっているの。だから、そろそろ帰宅しないと」
「えっ、もう行ってしまわれるのですか?」
 マイカががっかりした声で、寂しそうな表情を浮かべる。

「えぇ、申し訳ないけれど、みんなまたね」
 そう言って私は踵を返した。