たしかにルイーザの言うとおりだ。私は剣を握って戦うことができない。できるのは、邪魔にならないようにじっと神様に祈ることくらいだろう。

 うなずくと扉から手を離し、席へ戻った。
 それを見届けると、ルイーザは青ざめて震えているマイヤーヌを励まし始める。
 私は手を組み彼らの無事を祈りながら、再び扉が開かれることを願った。

 どれくらいの時間が経っただろうか。再び静寂が場を包み始めたことに気づく。
 沈黙がこんなにも恐ろしいものだなんて、生まれて初めて知った。

「アイザック……」
 つぶやくように彼の名を呼べば、馬車の扉が開かれアイザックが姿を現した。
 彼も戦闘に加わったのだろうか。
 衣服には所々にどす黒いシミが広がっているし、手や頬には血液と思われるものが付着している。

「無事か?」
 声を聞いた瞬間、私は飛びつくようにしてアイザックに抱きついた。
 安堵のためか、瞳からは涙が出て止まらない。
 アイザックが無事だったことを確認するように、私は彼をぎゅっと抱きしめる。
 本当に無事でよかった。身が切り裂かれるようなあんな思いは二度としたくない。

「シルフィ。もう大丈夫だから」
 アイザックは私を安心させるように落ち着いたトーンで声をかけながら、私のことをきつく抱きしめ、空いている手で何度も優しく背をなでてくれた。

「怪我は……?」
「してない。ウォルガーも無事だ」
「全員無事でなによりね」
 ルイーザが大きな息を吐きながら言うと、アイザックが「あぁ」とうなずく。

「現状をうかがっても?」
「何者かに襲撃されたが、俺や護衛の騎士で対処した。負傷者は騎士二、三名。応急処置している。傷は深くはないので心配不要だ。念のために別荘や敷地内の調査をするつもりでいる」
「殿下の婚約者である私が狙い?」
「……そう言っているが、どうもおかしい。腑に落ちない点があるんだよ。ウォルガーが城へ報告がてらに騎士の増援を頼んでいる」
「なにかわかったら知らせて」
「わかった。必ず知らせる。俺は尋問に加わるのでシルフィのことは任せる。それから窓は開けない方がいい。外は君たちが見るべきものではないから」
 アイザックはそう言うと、私を一度きつく抱きしめて身を離した。

「シルフィ、また後でな」
 私の頬をなでると、扉を閉めて立ち去っていく。
 彼の足音が遠くなるにつれ、私の心は不安に揺れていった。