「ごめんなさい。深く考えるのが癖なの」
「マイヤーヌ、めっちゃ頭いいもんね。ラルフと一緒でさ。秀才同士」
 ルイーザのからかうような口調に、マイヤーヌは頬を染めた。
 あっ、かわいいなぁ。つい、頬が緩んだ。

「いいなー。私も殿下のことを好きになれればなぁ……。あっ、そうだ。今夜、女子だけで恋愛トークしようよ。ラルフとの進展も気になるし、シルフィがアイザックとどんな感じなのかも気になるわ」
「わ、私は……その……」
 唐突にアイザックの名前が出てきたため、私は体温が一気に上昇するのを感じる。胸の鼓動が高まり、私たちの前方の彼が乗っている馬車が気になりだした。エクレール様の件で颯爽と現れて助けてもらったことや、アネモネの髪飾りのことなどが頭に浮かんでくる。

 そのため、余計に血液の流れが速くなり、私は恥ずかしくて両手で顔を覆いたくなった。
 前世の恋愛経験のなさがあるから、まったくポーカーフェイスを気取る余裕がないのだ。

「赤くなってるー。うらやましい。私も好きな人が欲しーーいっ!」
 突如として馬車が急停止したせいで、私たちに衝撃が走る。
 車内には不穏な空気が流れ、馬のいななきが外から聞こえた。それから、男性の叫び声も……。

「馬車に不調でもあったのかしら?」
 私が窓に手を伸ばしかけると、「シルフィ、絶対に外に出るな!」というアイザックの感情的な声が届いた。

 体が金縛りにあったかのように動かない。

 なにが起こっているの……? アイザックやウォルガーは無事なの……?

 今すぐ扉を開けて彼らの安否を確認したい衝動に駆られ、扉に手をかけるとルイーザの手が私の手を掴んだ。

「ダメよ。おそらく襲撃を受けているわ」
「そんな!」
「絶対に開けないで。外は危険よ。足手まといにならないように中にいた方がいいわ。アイザックたちは大丈夫。護衛の騎士たちがいるもの。城の騎士団で精鋭部隊だから安心して」
「……うん」
『足手まとい』という言葉がぐるぐると頭を回る。