寝泊まりの為にエレノアや他の姫に与えられた部屋は、
城の左側にあるかつての皇帝の側室達が使っていた宮殿だった。


10畳ほどの部屋には、綺麗に整えられたベッドやドレッサー、テーブルなどが完備されていた。


「もし姫様が側室になったらこの部屋がそのまま与えられるんですかねぇ?」

見渡しながらゼノが言う。


「そ、そんなの…わからないわよ」

「全く…姫様はいつまで弱気なんですか」

「…」


エレノアの頭の中は、さっき見た皇帝の顔で埋め尽くされていた。




ーあんな怖い人…嫌だ…




俯いていると、ゼノはエレノアの妹が手作りしたウサギの帽子をふわりと頭に被せた。



「ユミール王国を守りたくないんですか?」


「そ…それは…」


「それとも、俺と何処かに逃げちゃいますか?」


「…へ?」



唐突にそんなことを言われたので顔を見上げた。




「姫様となら旅も面白そーだなー」

「ゼノ…そ、それは…」

「嘘です。」

「嘘なの!?」

「ありゃ?本気だと思ったんですか?ぷっ」

「ば!ばかにしたわね!!それでも私の側近なの!?酷い!!」

「いやいや、バレたら俺殺されますから!ハハハッ」

「もう!」


真っ赤になった顔を隠す為に、近くにあったクッションに顔を埋めた。