それは、雪が積もった朝のこと。

キラキラと木々につららが光り、見事なほど空は晴れている。

ここはユミール王国。

小さな雪国だ。



「うわぁーい!晴れてる!わーい!」


4才になったばかりの小さなエレノアは、大はしゃぎで城の中庭を走り回る。


「そんなに走るといつか転ぶからなー」

兄のソフィールが言った。

「大丈夫だもーん!エレノア走るの得意だもーん!兄様!雪でお城作りましょうよー」

「やだね。そんなことよりも…よっ!」

バフッ!

とエレノアの顔面に雪玉が直撃した。

「んーーー!何するの!?兄様のバカバカぁー!」

雪合戦が始まった。

圧倒的に三歳年上の兄の方が有利だ。

バフッ!バサッ!バシャッ!

その時間わずか3分。エレノアは雪まみれで、いつの間にか半泣きになっていた。


「兄様きらい!兄様きらい!うぁーん」


とうとう泣き出して庭の角にしゃがみこみ泣き出した。

小さなエレノアは木の後ろがわに隠れた。


「うーぅー…う?」


泣いていたが、何かを見つけ涙が止まった。


「可愛いお花」


雪の結晶で覆われた小さな黄色い花。

その花は雪の寒さにも負けず一輪だけ咲いていた。

不思議な事に花の周りには雪が積もっていなかった。

「お母様にあげよう」


そう言って花びらに付いた雪を払い茎を折った。

と、同時に急に突風が吹いた。


「わぁっ!んん!」


口を開けた瞬間。

ごくん。

花びらはエレノアの口の中へと入ってしまった。

エレノアはそれを飲み込んだ。

「うぇ…美味しくないよぉ」

「まったく!いつまで泣いてるんだよ、悪かったよ。ほら城に戻るぞ」

「兄様…うん」

二人は城へと戻っていった。




エレノアは知らない。


その花に特別な力があるということを。


17歳になった今も、花を飲み込んだことすら忘れ。


これから起こる出来事も_