「お前、もう本読むのやめろ」


「え・・」


唐突にそう言われ、ミネルアの眉はしかめた。


ヴォルスももう19歳。成人し、体つきも声も大人に成長した。


「な、なんで?」


「だってお前最近怯えてばっかりだ」


「そんなことないよ、平気だよ」


「そんな風に見えないから言ってるんだ」


ミネルアは目を逸らした。

オオカミみたいな鋭いヴォルスの瞳。

最近目を見ることに抵抗があった。




「だって・・知りたいじゃない・・この世界の事も・・私の事も」


「街の本屋に手がかりなんてない。ただの民間向けの小説ばかりで」


「でも・・」


最近ヴォルスの声が怖い。

低く、怒っている様に聞こえる。



「お前はここにいればいい」


そう言われミネルアの目が見開いた。


「な、何よそれ・・もう諦めろってこと!?」


「・・・」



ヴォルスは答えなかった。

ミネルアはすぐに否定した。

「私は帰りたい・・・お父様にもお母様にも、生まれたばかりだった弟にも皆にまた逢いたい!」


「・・わかってる」


「わかってない!手がかりなんて初めから探してなかったんでしょ!?
あの時帰してくれるって言ったのも、気休めだったんでしょ!?」



パンッ



ヴォルスはミネルアの頬を平手打ちした。



「そんな風に思ってたのか?俺の事」


「・・っ・・」


言葉は出ない。何も思い浮かばない。

叩かれたのは初めてだから。



「頭冷やせよ」


ヴォルスは静かにそう言って去っていった。