黒翼の淡恋

夕焼け空は沈み、月がぽっかりと夜空に浮いた。

今日の満月の光はとても眩しく、明かりが無くても歩けるほどだった。

シリウスの部屋についている小さなシャワールームで、ティファは髪を洗っていた。

鏡に映る自分の髪。

カラスの様な真っ黒な髪だ。


「はぁ・・この髪じゃなかったら苦労しない人生だったハズなのに・・どうしてこれで生まれちゃったんだろう私」


毎回シャワーを浴びる度に考えてしまう。

考えても答えは出ない。

自分の本当の名前さえも思い出せないのに。


「ケーキ・・美味しかったな」



二度と食べられないだろう。

今日は特別だったから。

そもそも奴隷に等しい存在のティファだ。


「はぁ・・」


長いストレートな髪をタオルでごしごしする。

それから大きな女性用の櫛ですく。

乾くのに時間がかかる。


「いっそ切ってしまおうかな・・」


ガチャ。

独り言を言いながら部屋に戻ると、ソファにシリウスが座っていた。


「ひゃっ!?え!?何!?」


「何故慌てる。ここは俺の部屋だ」


「え、あ、そ、そうなんですけどもっ」


書類に目を通しながら、一切こちらを見ようともしない。


「お前が昼間にあんな事したから、寝る場所が無くなった」


「え?それって?」


「あの二人は軽々しい女だったから使いやすかったのに。お前が来て本性が見えてムカついた。
まあ、所詮貴族の女はあの程度だがな。いつでも皇子の妃を狙っている。醜い生き物だ」


「恋人じゃ・・」


「やめろ気持ち悪い」


「え・・」


_恋人じゃなかったんだ?


ほ。

とした自分がいた。



_あれ?なんでほっとしたんだろ?



シリウスは書類をまとめ引き出しにカギをかけた。

そして上着を脱ぎ、ソファにかける。

白いシャツのボタンを外しながらこう言われた。



「俺もシャワーを浴びる。変な真似するなよ」


「はい!?変な真似とは!?」


「無防備な俺を殺そうとしたり、無防備な俺を覗いたり」


「な///・・するわけないっ!!・・ですっ」



バタン。

シャワールームの扉が閉まった。


_何これ・・どうしようっ・・変な緊張が襲ってくるっ


ティファはソファにグッタリと倒れこんだ。