部屋に戻ってから二時間、ティファは一人で窓から外を眺めていた。

空は少しずつ夕焼けになりつつあった。

オレンジの空が何故か胸を締め付けた。

フォルトは仕事で監視から外れている。

中にはフォルト直属の兵士が二人待機している。

もちろんティファの監視だ。


「はぁ・・」


ため息をつくと同時に部屋の扉が開いた。


「あ、シリウス様。」


ドキン


兵士がシリウスにお辞儀をすると、出ていけの合図を手で送った。


「失礼いたします」


バタン。


部屋にはティファとシリウスの二人だけだ。

ティファは目を合わせる事が出来ず、近くにあったシルクのカーテンを握りしめた。

体ごと巻き付けたい思いだ。



「こっちへ来い」


「・・」



怒ってはいないらしい。

いつもの静かな声で促され、ティファはテーブルの前にあるソファに向かう。


「座れ」


「はい・・」


ティファが座ると、シリウスはおもむろに持っていた箱を置き、中身を取り出した。


「え・・これ・・」


「食べるか」


「え・・」



突然のスイーツを目前に戸惑う。

小さくて可愛らしい形をしたケーキが二つ並んだ。



_どういうこと?何?



「これがなんだかわかるか?」


「わからない・・知らない食べ物・・可愛い」


「デザートも知らないのかお前・・」


「デザート・・?」


初めて見る食べ物だ。

白い色をした土台に赤くて可愛らしい果物がちょこんと乗っている。

もう一つは茶色の土台に雪が降っている様に白い粉が降りかかっている。

お皿に置いてあるということはもちろん食べ物だという事はわかる。

でも味まではわからない。出会った事がないかもしれない。


「食べてみろ」


「は、はい・・」


白い方をフォークで切ってぱくりと口に放り込んだ。



 !!!\ぱああああ/


余りの美味しさに目が輝いた。


「ふぉいしい・・いい!!初めての味ですっ」


「そうか・・」


ゴクン。


「でも、あの・・なんで・・」


シリウスはティファの抓られた頬を指で擦った。


ドキッ


「痛かっただろうからな」


「!」


「詫びだ」


「そ・・そんな・・平気・・です」



急に恥ずかしい思いでいっぱいになった。

指が触れた部分がじんわりと熱い。


「まあ、自業自得とも捉えたが」


「え」


「俺の兵士が後で謝ってきた。俺が困っていたからつい、フォルトに相談に行ったとな」


「うん・・それを聞いてしまって。勢いで余計なことをしました・・ごめんなさい」


ぽん。

大きな手がティファの頭に乗った。


「済まなかったな。ありがとう」


シリウスは目を逸らしながらも優しく黒髪を一度撫でた。


「あ・・」



さっきもフォルトの前で泣きはらしたというのに、また涙があふれ出した。


_ありがとうって言われた。この人に。

信じられない。



「泣くな。早く食え」


「は・・はいぃ」


嬉しくて嬉しくて、泣きながらケーキをほおばった。

きっと一生この出来事は忘れないとティファは思った。