黒翼の淡恋

洞窟に入ると、すぐに焚き木をくべて清潔な水で足の手当てをしてくれた。


「家は何処?」


「・・言えない」


「えー?家出?」


てきぱきと足の血をぬぐっていく。


「でも、この紋章見た事あるわね。クロニス帝国の」


「・・・・」


そこまで知っているのなら言う必要もないと思った。

母親は勝手に口を開いてずっとしゃべっている。


「私には二人の子供がいてね、丁度あなたと同じくらいの息子がいるわ。その下に娘」


「二人も黒髪か」


「・・娘だけね」


「そうか」


きゅきゅっと手際よく包帯を縛る。


「こんなご時世だから、切実なんだけど・・娘には辛い思いをしてもらいたくないのよね。黒髪ってだけで悪人扱いでしょ?」


「・・そうだな」


「そんな古い伝承、誰かがぶち壊してくれればいいんだけど」


コップに水を汲み、シリウスに渡した。


「期待しないけどさ。これも何かの縁だし、あんたに言っとくわ。黒髪ってだけで差別するなんて古すぎ、頭悪すぎってね」


「・・・・」


「だって私の娘、ちょーーーー可愛いのよ。純粋で馬鹿で」


「馬鹿って」


「4歳になったばかりだけど、存在だけで人を幸せにするくらい笑顔が可愛いんだから。まあ、人に見せた事ないんだけどね」


「・・そうか」


「あなたとはもう会うことはないと思うけど・・・覚えてたらよろしくね」


にこり。

屈託のない笑顔をシリウスは今でも覚えている。