未来への不安は多少あれど、そんな調子でサマラの毎日はおおむね良好だった。

魔法の練習も順調で、魔力は確実に上がってきている。知識の方は努力の甲斐があって、薬草や鉱物の見分けも精製の仕方もばっちりだ。あとは魔力さえ伴えば、サマラは優秀な魔法使いになれるに違いなかった。

そしてやって来た八月の二十一日――。
それは、サマラにとって特別な一日だった。



「いよいよですね、サマラ様。夕方が楽しみですね」

ニコニコと上機嫌で、メイドのアリサがサマラの髪を梳かしてくれている。
可愛く編み込みにリボンを飾られ、鏡に映るサマラの笑顔もニコニコだ。

「うん。おとーさまとお誕生日を過ごすの初めてなんだ。だからすごく楽しみ」

楽しみで頬を上気させて言うサマラに、アリサは「さようでございますか。それはよかったですね」とますます顔を綻ばせた。

今日はサマラの六歳の誕生日、そして初めてディーと一緒に過ごせる誕生日だ。
サマラが赤ん坊のときにディーはアリセルト邸を出ていってしまったので、共に誕生日を過ごしたことは一度もない。毎年カードとプレゼントは届いていたが、サマラにとって誕生日は自分が両親に見捨てられたことを痛感する悲しいだけのイベントだった。

けれど今年は違う。
夕方からはディーがサマラのため特別な場所へ連れて行ってくれるというのだ。もうそれだけでサマラはケーキもプレゼントもいらないくらいに嬉しくてたまらない。

「嬉しいな、楽しみだな。おとーさまと一緒のお誕生日。はやく『お誕生日おめでとう』って言ってもらいたいな」