「ううん。私こそ、ピクシーの誘惑に負けちゃってごめんなさい。でもね、すごく不思議だったの。どこまで歩いてもずーっと鈴と歌が聴こえてくるの」

「あれはピクシーが踊るときに出す音だ。今度見せてやろう」

「すごーい。おとーさまはピクシーを見たことがあるんですね」

「大抵は夕暮れに妖精の丘で踊ってる。見るのは簡単だ」

そんな会話をしながらサマラはディーの抱っこ越しに、さっきいた場所を眺め続ける。あの男の子はいったいどこへ行ってしまったのだろう。

意地悪なのか親切なのかよくわからない男の子。黒髪と金の瞳の少し大人びた顔立ち。そして、大人並みに強い魔力。

(……あんなキャラもゲームにはいなかったよね? あの子もモブなのかな。そのわりには個性が強い気もするけど)

彼の口の悪さは思い出してもムカムカするけれど、出来ることならもう一度会いたいと思う。

(だって……まだちゃんとお礼言えてないんだもん)

日が沈み始めオレンジ色に染まった森を眺め、サマラは再び彼に会えますようにと心の中で願った。