「ごめんなさい、おとーさま。私がちゃんと魔法の練習に集中してなかったせいで……。でも、すぐに助けてもらったから怪我はありません」

「助けてもらった? 誰にだ」

「それは――」

男の子のほうを指さそうと振り返って、サマラは「あれ」と瞬きした。さっきまでそこにいた男の子がいない。

「どうした?」

キョトンとしているサマラを、ディーが怪訝そうに見つめてくる。

『黒い外套を着た男の子がさっきまでそこに』と言おうとしたとき、風がふわっとサマラの耳を掠めた。

――「俺のこと、誰にも言うなよ」

「え?」

男の子の声がして、サマラはビックリして辺りを見回すがやはり姿はない。

(今のも魔法……?)

ますます様子のおかしいサマラに、ディーは肩を掴んで「大丈夫か?」と顔を覗き込んできた。

「あ、大丈夫……です。あの、えっと。妖精が助けてくれたの。きっとおとーさまの加護を受けたからかな」

サマラはなんとなく、男の子を庇ってしまった。ディーに隠し事をするのは気が引けるけれど、助けてもらった恩がある。今日のところは黙っておこうと思った。

「……そうか」

ディーはあまり納得していない様子だったが、特にそれ以上追求してくることはなかった。

「すまなかったな、目を離して。この森のピクシーはあまり悪戯をしないのだが、子供が珍しかったのかもしれない。油断した。これからは気をつけるとしよう」

そう言ってディーはサマラを抱っこしてくれた。ピクシーの魔法の世界を彷徨ったサマラを気遣ってくれているのだろう、今日はもう魔法の練習は終わりのようだ。