確かに彼の言う通り、ピクシーの魔法の中にいたサマラの声を聞きつけ、さらに魔法を祓ったのだから相当の実力の持ち主だ。大人にだって簡単に出来ることじゃない。
けれど、喚いていたことを小馬鹿にされたサマラの怒りは収まらない。

「そ、そんなふうに泣いてないもん! ちょっと『疲れた』ってぼやいただけだもん。それにあなたに助けてなんて言ってないし。もう少ししたらおとーさまが助けに来てくれるはずだったんだから」

興奮して手をパタパタさせながら怒るサマラを、男の子は「赤ん坊みてえ」とケラケラと笑う。幼児に赤ん坊扱いされて、サマラの怒りはますますヒートアップした。

「何よもう! ちょっとくらい魔法がうまいからって! 馬鹿馬鹿!」

「助けてやった恩人に『馬鹿』はねえだろ。お前の方がよっぽど馬鹿だ」

本当は助けてくれたお礼を言いたいのに、彼が軽口ばかり叩くものだからお礼を伝える機会を失う。それがもどかしくてサマラはよけいにイライラを募らせた。
そのとき。

「サマラ!」

ディーの呼ぶ声が聞こえて、サマラは振り返る。

「おとーさま!」

ディーは珍しく走ってこちらへ向かってきていた。いや、珍しいどころか彼が走ってる姿を見たのは初めてかもしれない。

「サマラ……! ピクシーの誘惑に嵌まったんじゃなかったのか」

サマラの前までやって来たディーは、すぐさましゃがみ込んで足から頭の先までマジマジとサマラを見つめる。そして特に変わりがないことを確認すると、小さくホッと息を吐いた。