転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました

そう言ってポンポンと背中を叩いてくれたディーが一瞬眉根を寄せていたことに、抱きついていたサマラは気がつかなかった。



――『ひとりでウロチョロするなよ』

そう言われていたのにさっそく言いつけを破る事態になってしまったことを、サマラは深く反省しながら森に佇んでいた。

それは、王都へ来て一週間後。
妖精からの祝福も国王への謁見も済ませ、ようやく新しい生活も少し落ち着いてきた日のことだった。

サマラはディーに連れられて自然公園で魔力を高める練習をしていた。そこへ研究所の魔法官がやって来てディーに客が来たことを告げ、ディーは「すぐに追い返して戻る。ここで待っていろ」と残して行ってしまったのだった。

もちろん五歳の幼子をひとりで残していったわけではない。すぐそばの樹ではディーの使い魔のフクロウが見張っているし、ディーは去り際に様々な加護の魔法をサマラにかけていった。万が一人さらいや野生の動物などに襲われても、確実に返り討ちに出来るだろう。

サマラはひとりでも練習を続けようと、ディーに借りたトネリコの杖を握りしめ意識を集中させようとした。――そのとき。

リンと鈴の音が聞こえた気がして、サマラは閉じていた目を開いた。辺りを見回すが人の気配はない。
気のせいかと思ったが、再びリンと音が鳴った。しかも今度は連続だ。

「誰かいるの……?」

サマラが小さく呼びかけると、鈴の音に続いて歌声が聞こえた。なんだか胸がワクワクする歌声だ。好奇心旺盛なサマラは、誰が歌っているのか気になって仕方ない。