転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました

ザハンの醜悪な嘲りを含んだ声。そしてディーの「去れ」という怒りを押し込めた声。

「それでは」と短い挨拶を残して、扉の開閉する音が聞こえた。
ザハンが帰ったのだとわかって、サマラはホッと胸を撫で下ろす。

（なんか、すっごい険悪な雰囲気だった～。あんなおじさん、ゲームに出てきたっけ？）

首を捻って考えるが、記憶にない。どの攻略キャラのルートにもザハンなどという男は出てこなかったと思う。

（まあ、いたとしてもきっと名前すら表示されなかったモブキャラよね。それならあんまり気にしなくても大丈夫かな）

ディーとやけに険悪だったのは気になるが、大人の世界というのが複雑なことくらい、前世で社会人をやっていたサマラは熟知している。
こういう問題に、子供は首を突っ込まないのがベストだ。

「もういいぞ。出てこい」とディーが仮眠室の扉を開けてくれたので、サマラは会話を聞いていたことを悟られないように「はーい」と無邪気を装って笑う。そして腕を伸ばして抱っこをせがみ、ディーに抱き上げてもらった。

「おとーさま。私、お腹が空いたみたい」

「そうか。ならば屋敷に戻るとするか」

「うん。でもまたここに連れてきてもらってもいいですか？」

「ああ。ここは妖精がよく集う。魔法の訓練にはうってつけだ。いつだって連れてきてやる」

「やったあ！　ありがとうございます！」

ギュッとディーの首に抱きついて、肩口に頬を擦り寄せて甘える。ディーからはもう不機嫌な雰囲気はしない。しかし。

「いつだって連れてきてやる。ただし――ひとりでウロチョロするなよ」