転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました

これが妖精の祝福というものかとサマラは感激する。新しい地に来たとき、その土地の妖精の祝福を受けると幸福になるというのは、この世界だけでなく前世でも聞いたことのある話だ。
ディーは新しく王都に来たサマラに、この祝福を受けさせるためにここへ連れてきたのだろう。

「うまくやっていけそうだな」

いつの間にか隣に立っていたディーが、どこか安堵したように表情を和らげる。
サマラは新しい地での生活がきっと明るいものになると期待に胸膨らませ、「はい!」と満面の笑みを浮かべた。――ところが。

部屋にノックの音が響き渡った途端、妖精たちははしゃぐのをやめて素早く物陰に隠れた。窓から出ていってしまったものもいる。
そんな彼らの様子を見て、ディーも表情を厳めしく引きしめた。

「アリセルト閣下。ザハンです。お帰りになられたと聞いて、ご挨拶に参りました」

扉の向こうからかけてきた声を聞いて、ディーの顔色が変わった。忌々し気に眉根を寄せ、チッと小さく舌打ちをする。

「……サマラ。奥の部屋にいろ。俺がいいと言うまで出てくるな」

「え?」

どういうことかと質問する間もなく、サマラは奥の仮眠室に追いやられてしまった。

(誰が来たんだろう? 私に会わせたくない人なのかな?)

サマラは気になって、扉の隙間から所長室を覗こうとする。けれど姿が見えないので、耳を当てて声だけ聞くことにした。

「ご無沙汰いたしております、閣下。ご無事のお帰り、何よりでございます」

ザハンと名乗った声の主は壮年のようだ。口調からして五十……いや六十代くらいだろうか。