CHAP3



「えーっと、本は全部運んだし、薬草の瓶も精製中の鉱石も鞄に入れた。忘れ物ないよね」

サマラは自分の勉強部屋を見回し、空っぽになった棚や引き出しを確認して頷く。
そして「あとは……」と呟くと勉強机の奥から『魔法の国の恋人 サマラ特性オリジナルファンブック』と表紙に書かれたノートを取り出し、「これだけは肌身離さず持っていかなくちゃね」と、手持ちの旅行鞄に大事にしまった。

「しばらくこの部屋ともお別れかと思うとちょっぴり寂しいな。座学が嫌いで逃げ出してばっかりいたけど、ディーが帰ってきてからは私の魔法の知識を育んでくれた大切な場所だものね」

家具以外はガランとしてしまった部屋を見渡して、サマラは少しセンチメンタルな気分になった。
思い出の染みこんだ部屋にペコリと頭を下げて「今までありがとう、またね」と残し、サマラは部屋を出ていく。そして旅行鞄を手に小走りで向かった。
王都へ向かう馬車が待つ玄関へと――。



ディーがアリセルト邸へ帰ってきてから四ヶ月。
季節は秋から冬へと移り変わり、このアリアン州でも街が雪に覆われるようになっていた。