前世でもたった二十五歳でしんでしまったのに、今回もまた若くして無残に死ぬのかと思うとゾッとした。それだけは死んでも避けたい。

(意地悪しない! お利口に生きるから! おとなしく優しく堅実な女の子になるから! だから絶対生き延びたい!!)

――サマラが前世の記憶を取り戻してから生への渇望を心で叫ぶまで、現実時間にしてわずか七秒。
頭をフル回転させて現状を理解したサマラは、こめかみに汗を流しながら正面を見上げた。

目の前に立つのは、家紋の入ったマント留めを胸に飾り黒い外套を羽織った長身の美形。サマラの父であり――『まほこい』の攻略キャラのひとり、ディー・ル・シァ・アリセルトだ。

サマラとの再会は五年ぶりである。つまり、サマラが物心つく前の赤ん坊のとき以来の再会なのだ。

実はサマラとディーは血が繋がっていない。サマラはディーの元妻ナーニアが他の男と浮気して出来た子供なのだ。それが発覚したのは、サマラが産まれた直後だった。

ディーの家系は代々黒髪と金目だ。とても強い遺伝子らしく、子は必ずこの色を引き継いでいた。
しかしナーニアが産んだのは人参色の髪と草色の瞳を持つ女児だった。ナーニアと長年懇意にしている幼なじみの男の持つ色と同じだった。
ナーニアを信じたいディーが悩み葛藤している間に、ナーニアはその幼なじみの男と消えた。まだ生まれたばかりの赤ん坊と、ポエムのような手紙を残して。