転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました

開けた視界に映るのは、黒い杖を持った外套姿で悠々とこちらに歩いてくるディーの姿。そして幽霊のような風体でディーの隣を歩く……いや、浮いている黒いドレスの女性だった。

「閣下……!」

店主の魔法攻撃から解放されたカレオが、ディーの方を振り返って刹那安堵の笑みを浮かべる。そしてすぐに表情を引きしめ、「申し訳ございません。サマラ様を危険な目に遭わせてしまって……」とこうべを垂れた。

ディーは無言のままカレオに近づくと、腕を伸ばしサマラを受けとった。そして抱っこしたサマラを一瞥すると「怪我はないな?」と短く尋ねた。
コクコクと頷くサマラを見て、ディーは店主と対峙しカレオに背を向ける。

「無事ならばそれでいい。よくサマラを無傷で守ってくれた」

振り向かないまま言ったディーの言葉に、カレオの顔が柔らかに綻んだ。

「あ、あ……りょ、りょ、領主様……あの、これは……」

さすがに領主の顔は知っていたのだろう、ディーを前にして店主は震えながら言葉を詰まらせる。

「わ、わ、私はまっとうな商売をしております。それを、その、お、お、お嬢様が誤解されて……、りょ、領主様のご息女と存じ上げなかったもので、その、少し注意してあげようとして……」

(何が注意よ! 本気で殺しかねなかったじゃない!)

店主の言い訳を聞いてサマラは憤慨する。しかしディーから放たれている無言の威圧感は、サマラの怒りの比ではなかった。