発表は五人だが、公式はほんのりと『六人目の攻略キャラがいる』ことを窺わせる発言を繰り返してきた。しかし、全員攻略しようが選択肢をしらみつぶしに選ぼうがパラメーターをマックスまで上げようが、六人目が出現しないのだ。

これにはユーザーたちも躍起になり、ネットでは情報交換が飛び交い、公式が出すファンブックの類は必読となった。
もちろん佐藤由香もそのひとりである。乙女ゲームマスターとして日々情報を集め、全員クリアをさらに周回し、ファンブックを穴が開くほど読み込んだ。

そしてその日も佐藤由香は平凡な仕事を終えると速攻で退社し、家に帰って『魔法の国の恋人』をやり込むつもりだった。頭の中には常に『まほこい』のBGMが流れ、目を閉じると各キャラの顔と台詞が浮かぶくらいにはどっぷりハマり込んでいた。しかしそれがよくなかった。

『まほこい』のことで頭がいっぱいだった佐藤由香は、居眠りトラックが信号無視で横断歩道に突っ込んでくることに気づくのが遅れた。

――六人目……攻略したかったなあ。

それが佐藤由香が二十五年の人生の最後に願ってしまったことだった。



そんな残念な終末を迎えた前世を、サマラは思い出した。それと同時に今の自分が何者であるか、否が応でも悟ってしまったのだ。

――大好きだった乙女ゲーム『魔法の国の恋人』の悪役令嬢、サマラ・ル・シァ・アリセルトだと。

(私ってゲームのキャラだったの!? しかも悪役令嬢!?)

サマラが動揺するのも無理はない。今までちょっと変わった家庭環境とはいえ、普通の女の子として育ってきたのだ。