半月前から書き始めたノートはもう七割近くが埋まり、このままファンブックの模写になりそうな勢いだ。

「さーて、今日はここまでにして、そろそろおとーさまの所へ行こうっと」

大きく伸びをしてから、サマラは椅子からピョンと飛び降りる。そしてスカートの裾を直すと、弾むような足取りで屋敷の庭園へ向かった。

サマラが前世の記憶を取り戻し、ディーと暮らすようになってから二週間が経った。
ディーは相変わらず日常会話が得意ではないし愛想がなく表情の変化に乏しいのもあって、劇的に仲が深まったとは思えない。

けれど、サマラに魔法のことを教えてくれるときは真剣で、親身に根気よく教えてくれた。
おかげで二週間前まで魔法の知識など皆無だったのに、今ではサマラは自力で妖精を見ることが出来るようになった。ただしまだまだ魔力は乏しく、妖精は力を貸してくれない。

「お嬢様、廊下を走ってはなりません」
「あ、ごめんなさい!」

廊下ですれ違ったメイドに注意され、サマラはいつの間にか小走りになっていた足を止める。メイドはそれを確認すると音もなく廊下の奥へ消えてしまった。

この屋敷で働く使用人は筆頭執事のジョナサン以外、全員がディーの使い魔だ。
使い魔とは、魔法使いと契約を結び使役してくれる妖精のことである。使用人たちはもともとは皆、家事妖精のブラウニーという種族であり、ディーとの契約でこの屋敷と屋敷の住人を守ってくれている。