バリアロス王国では王宮に魔法研究所を有しており、公認魔法使いのほとんどが宮廷魔法官としてここで働いている。普段は薬草の研究をしたり、新しい武器や道具を精製したり、魔法について書かれた古い書物を解読したり等々、魔法に関する研究に従事している。そして人里の近隣に魔物に関する異変があれば、それを解決する業務も負うのだ。

ディーは魔法研究所の所長でもあり、王国でただ一人の魔法大臣でもある。
彼は今から七年前、バリアロス王国の辺境に巨大竜が出現したときにカレオと共に討伐に向かい、見事にその重責を果たした。同行した魔法使いと剣士が十数人も亡くなる凄まじい戦いだったという。
桁外れの力を持っていた竜はバリアロス王国だけでなくメイザー大陸全土の脅威でもあり、もしディーが禁呪を使って竜を倒さなければ、メイザー大陸の人間は根絶やしにされていただろう。

まさに人類の救世主となったディーは、国王から新たに公爵位を授かった。通常なら王族の血筋の者しか公爵にはなれないのだが、国に大きく貢献した者は例外的に臣民公爵というものになれる。
こうしてディーはバリアロス王国……いや、メイザー大陸ただひとりの『魔公爵』となり、財産も名声も権力も、王家に匹敵するほどの人物となったのだった。

ちなみに、ディーと共に竜の討伐に加勢して生還したカレオも、帰国後に領土と子爵位を賜り『シァ』の称号を得ている。

(――というのが、ファンブックvol.2に載ってた情報だっけ)

記憶の糸を手繰り寄せながら、サマラは今日も今日とて思い出した情報をノートに書き留めていく。