転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました

「……執事から聞いていなかったのか。俺は明日にはここを発つ。市場に用事があって来ただけだ、すぐに王都に戻る」
「はぁ!?」

うっかり立ち上がって叫んでしまって、サマラは慌てて口を両手で押さえた。そして鳩が豆鉄砲を食らっているような顔のディーに愛想笑いをして可愛らしく小首を傾げながら、おしとやかにソファーに座り直した。

(あ、明日? 一ヶ月くらいいるんだと思ってたよ! それまでに良好な父子関係の基礎を築こうと思ってたのに~。あと数時間で何が出来るって言うの!?)

「て……てっきり、もっとゆっくりされるのだと思ってました。だから驚いてしまって……、寂しいなって……」

「…………」

ますます絶望を色濃くしながらサマラはシュンと肩を落とした。もはやディー攻略は完全に無理だ。他の生き延びる方法を探すしかない。
「はぁ……」と俯いてため息をつくと、しばらく沈黙が流れた。空気が重々しいが、サマラにはもう取り繕う気力もない。――すると。

「サマラ」

ディーが呼びかけて、手招きをした。
なんだろう?と思いながら、サマラは重い足取りで彼の前へ行く。ディーは自分の隣をポンポンと叩いて座るように促したので、おとなしくそれに従った。

「目を閉じろ」
「? はい……」

意味がわからないまま目を閉じると、両手を握られる感触がした。驚いて瞼を開きそうになるが、「そのまま。呼吸を整え、穏やかに」と命じられた。

言われるがままに従っていると、やがて妙な浮遊感に襲われた。フワフワとしていて体重を感じない気がする。

「瞼を閉じたまま目を開け。ゆっくりと、自然に」