転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました

体感としてはもう何十時間も経っている気もするし、まだ一時間も経っていないような気もする。現世とは時間の概念が違う常世で時の流れを計ろうとするのは無意味だ。

ただサマラは集中力を途切れさせないように杖を掴んだまま前を見据え続けた。周囲は無音でずっと闇が続いており、何も見ることが出来ない。
もしディーの加護がなければ、あまりにも虚無な空間に精神が持たなかっただろう。

永遠とも思われる闇を進み続けていたサマラは、いつの間にか自分がカラドリオスに乗っているのではなく自分の足で歩いていることに気付いた。

「あれ……?」

不思議には思ったが驚きや恐怖はなかった。まるで夢を見ているみたいだ。
足は素足だった。地面は砂だったり水だったりなんとも言えない感触で、歩くたびに沈んでいく気がする。

やがて歩いているのか泳いでいるのか飛んでいるのかもわからなくなって、自分がどんな形をした生物だったかも忘れていく。
それでもサマラが進み続けられたのは、杖のブルーベルが淡い光を放ち続けてくれたからだ。

(……進まなきゃ。待ってるから。進まなきゃ)

生物としての概念を失いながら悠久に感じられた旅の果てで、サマラは形あるものを見つけた。それは――不格好な土人形だった。

(これは……)

拾い上げようとして、サマラの手が再び形を成した。

――『お前まさか俺がただの小汚い土人形贈ったと思ってないだろうな』

「……レヴ……!」

人形を抱き上げた腕が、見つめる瞳が、名を呼ぶ口が、記憶を取り戻した頭が、次々とサマラの形を作り上げていく。

「……そうだ私、レヴを助けに来たんだ!」