転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました

「――理論上はな。ただ、体にも精神にも大きな負担がかかっているはずだ。戻ったあとどうなるかは……俺にもわからない」

慎重な口調で言ったディーの言葉に、サマラはゴクリと唾を飲む。
けれど今は先のことまで心配している余裕はない。レヴを戻すことだけを考えなければ。

「俺が闇の精霊を退ける。サマラ、お前がレヴの精神を呼び戻せ」

ディーはそう指示を出すと、サマラの影から杖を取り出して握らせた。

「常世の見方はもう十分わかっているだろう。それよりもさらに意識を集中させ、奥へ奥へと進むんだ」

「私が……深淵まで……?」

自分にそれが出来るだろうかと、さすがに気持ちが竦む。
深淵まで辿り着けた魔法使いは有史以来五人といない。皆、人並み外れた魔力と類まれなる才能を持った者ばかりだ。幼い頃から努力し続けても凡人並みの魔法使いにしかなれなかったサマラに、同じことが出来るとは思えない。

(常世は人ならざる者が住む世界。奥へ行けば行くほど危険も多いし、ましてや深淵は見るだけで精神が破壊されるっていわれてる。そもそも私の魔力と集中力で深淵まで辿り着けるの……?)

杖を握りしめサマラが強張った顔をしていると、ディーがそっと頬を撫でてきた。

「大丈夫だ。その杖がお前と俺を繋ぐ。お前はひとりじゃない。……あいつが常世の底で待っている、助けにいってやれ」

その言葉が、サマラを見つめる真摯な眼差しが、燻っていた不安を消してくれる。
きっとやれる。やってみせる――そんな勇気が湧いてきて、サマラは表情を引き締めると「はい!」と力強く頷いた。