――『悪くない! 私は悪くない! 悪くない!』
数々の悪行を白日のもとに晒された悪役令嬢のサマラは、攻略対象のヒーローと周囲に責められ、耐え切れずその場から逃げ去った。
彼女は魔法研究所へ逃げ込み、そこで赤い液体の入った小さな小瓶を手にする。
『禁断の秘薬……。これを使ってリリザを亡き者にしてやるわ』
そしてサマラが瓶の蓋を開けた次の瞬間、映像が切り替って研究所を突き抜ける真っ黒い魔力の柱が映し出される。
リリザとヒーローが研究所に駆けつけたとき、そこには異形の魔人がいた。歪な体は黒く巨大で、目を覆いたくなるような醜悪さだ。人の言葉は通じず、それが不気味な雄叫びをあげるたび周囲に火と風が荒れ狂い大地が割れた。
地獄のような光景の中、魔人の足もとから逃げるようにサマラが這い出てくる。
『助けて……助けて……』と惨めに助けを乞う彼女の横には、空になった小瓶が転がっていた――。
(……間違いない、魔人出没前にサマラが持っていたあの小瓶だ……!)
目の前に転がる菱形の小瓶が、ゲームで見た画像とピタリと一致する。
ゲームでは小瓶に入っていた赤い液体の正体は明かされていなかった。『禁断の秘薬』という名だけが判明しており、魔人との繋がりも明かされていない。
プレイヤーの間では『小瓶に魔人が封じ込められていて、どこかでそれを手に入れたサマラがリリザを殺すために封印を解いたのではないか』というのが通説だった。
けれどサマラは、ゲーム内で明かされなかった真実を目の当たりにする。
それは魔人が封じ込められた瓶ではない。



