サマラを探してここに来たのか、それとも闇魔法の気配を感じて来たのか、あるいはその両方か。ディーは今までにない神妙で厳しい表情をしている。

「ま……待って、お父様! レヴは私を人さらいから助けてくれるために闇魔法を使ったの! だから怒らないで! 罰なら私が受けるから!!」

咄嗟にディーの前に立ちはだかり、サマラはレヴを庇った。
ディーはサマラの頭から足の先まで一瞥すると、その眉間に人差し指を置いた。「えっ?」と呟く間もなくサマラは眠りに落ち、ディーの使い魔のヴィーラ(風の精)が抱き留めて抱えてくれた。

サマラが眠りに落ちると同時にディーはゆっくり歩みを進め、レヴへと近づく。

「い、嫌だ……消さないで。俺はまだ……」

まるで弱々しい子犬のように怯えるレヴを見つめるディーの目に、哀れみの色が浮かぶ。
けれど彼はそれを振り払うように目を瞑り小さく首を振ると、「消しはしない。――今はな」と小さく告げて、レヴの額にも指をあてた。

意識を失いガクリとくずおれたレヴの体を、ディーが抱き留める。
十六歳の少年の寝顔は、まだまだあどけない。レヴの目尻に浮かんでいた涙が輪郭を滑り落ちていくのを見て、ディーは苛まれるように眉根を寄せ、「……すまない」と呟いた。