CHAP6



『アンチ・マジック』の騒動から一週間が過ぎた。
あれからリリザは魔法研究所に来ていない。退所勧告が正式に受理されたかどうかは不明だが、ディーにあれだけけちょんけちょんに言われたのだ。さすがのリリザも魔法研究所に顔を出したくないだろう。

ただし、だからといってリリザがおとなしく田舎に帰った訳ではない。なんでも彼女は特別に王太子側近の魔法官に召し上げられたのだという。
バレアン王太子の一存で決めたことのようだが、さすがにこれには宮廷官たちも眉をひそめているようだ。

それもそうだろう、本来なら魔法研究所の見習いを経なければ魔法官にはなれない慣例を無視した叙任なのだから。
しかも魔法官とは名ばかりでリリザは官僚の仕事も魔法使いの仕事もしていない。側近という名目で日がなバレアンといちゃついているだけだ。

『奇跡の子』ということで大目に見てもらっているのと、バレアンの惚れ込みようからしていずれ王太子妃になるだろうと噂されているのもあって、宮廷で声を大にして彼女を批判する者はいない。
けれど役に立つどころかバレアンの公務の妨げにばかりなっているリリザの評判は、はっきり言ってあまり良くないようだ。

(主人公補正って、そこまで万能じゃなかったのね。それとも主人公補正でも補えないほど、リリザの素行が悪い? ま、どっちでもいいけど)

魔法研究所の廊下で通りすがりにリリザの噂を耳にしたサマラは、そんなことを思いながら自分の担当する研究室へやって来た。

「おはようございまーす」

いつものように挨拶しながら部屋に入れば、他の研究員からも「おはよう、サマラ」と挨拶が返ってくる。――ただひとりを除いて。

「……」

入室してきたサマラを見ようともしないのは、同じ研究を担当しているレヴだ。奥の机で黙々と実験用の薬に魔力を籠めている。
横目でそれをチラリと見て、サマラは密かにため息をついた。