転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました

姿を見なくてもわかる。一瞬でその場の妖精をすべて従えさせられる魔力の持ち主。そしてサマラの怒りや不安を和らげることが出来るのは、ただひとりしかいない。

「お父様……」

兵士に体を捕まれたまま振り向いた先には、黒い外套を靡かせこちらへ向かって歩いてくるディーの姿があった。

サマラが胸に安堵を覚えたとき、体を強く拘束していた兵士の腕が急に外れた。兵士の「いででっ!」という声に驚き逆側を振り向けば、そこには片手で兵士の腕を捻り上げているカレオの姿が。

「年頃の女の子を力づくで拘束とは、褒められたもんじゃないですね。もしサマラ様の体に痣でも残っていようものなら、お前の仕事は明日から弓矢訓練の的ですよ」

「ひっ! カ、カレオ様……!」

腕を捻り上げられた兵士が顔を青ざめさせる。カレオがひと睨みすると、すぐに他の兵士たちもサマラとレヴから離れた。
カレオはこの王宮のすべての兵士を指南する立場だ。大陸一の剣の腕前を持つカレオに、王宮の兵士は束になってかかっても叶わないだろう。衛兵たちがうっかり王太子よりカレオの命令を優先してしまったのも、無理はない。

拘束の解かれたサマラは「カレオ様、ありがとう!」と叫ぶと、ディーのもとへ一目散に駆け寄った。

「お父様! みんなは!? 使い魔たちは……!?」

「大丈夫だ。皆、命は助かった。魔力の強い所員たちも復活している。あとは彼らに任せてきた」

ディーの言葉を聞いてサマラはホーッと息を吐きだした。体から不安と一緒にこわばりが抜けていく。