転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました

(『まほこい』のイベント……!『アンチ・マジック』だ!!)

『魔法使いの恋人』では、通称『アンチ・マジック』と呼ばれている好感度上昇イベントがある。
魔力を暴走させてしまったリリザを、大神官シャーベリンが秘術『アンチ・マジック』を使って救うというものだ。

『アンチ・マジック』は神殿が魔物退治を目的として開発した秘術だ。一部の魔法使いの協力を経て生み出したとされているが、実際には人体実験や犠牲者があったのではないかとも噂されている。
名前の通り、術者を中心に一定範囲の魔力をほぼ消滅させる強力な術だが、使える範囲は周囲二メートルが精々で効果も継続するものではない。おまけに使える術者は限られているので、今のところ実用には足らないものだ。

しかしその効果は恐ろしい。魔力は妖精や魔法使いにとって、体力や精神力と同等のものだ。いきなり奪われれば体にも害が及ぶし精神も乱れる。何より常世との繋がりが一瞬断ち切られる。

使い魔は契約者の魔力を常に糧にして生きている。その供給が断ち切られたうえ、自らの魔力も奪われ、重なり合う世界の常世からも完全に弾き出されたのなら、それは呼吸困難にも等しい。

だからこそ容易に使うことは禁じられている『秘術』なのだ。魔物だけでなく、魔法使いや使い魔の健康や命までも脅かす。

「マリン! しっかりして! 死んじゃ駄目だよ!」

まだ重く感じる体を引きずりながら、サマラは祈るような気持ちでマリンをペンダントの中へ還す。