転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました

取り繕って笑顔を浮かべるもふたりにはお見通しのようで、サマラに視線を送るのをやめてくれない。

「……リリザ・ミモランダのことか」

ディーがボソリと言った名前に、サマラは顔を強張らせてしまう。そして観念すると、手に持っていたフォークを置いて「はい……」と素直に答えた。

入所日初日に何もないところで転んでいたリリザは、とんだドジっ子体質だった。
うっかり手を滑らせ物を壊す。薬草の調合を間違え台なしにする。魔力の調節を間違えて魔法を使いボヤや水浸しを起こしたことも一度や二度じゃない。

共に研究や道具作りの補助をしているサマラも、何度も被害に遭った。仕訳けておいた薬草をゴチャゴチャにされたり、ノートにインクを零されたり、貸してあげた魔石を壊されたこともある。
しかも今日などは、魔力の調整を間違って火の魔法を使ったリリザが火柱を立て、それがサマラの髪にまで燃え移ってしまったのだ。
すぐに火は消し止めたものの毛先がチリチリになってしまい、サマラは不本意ながら髪を五センチも切る羽目になった。ため息をつくなという方が無理な話だろう。

大迷惑なリリザのドジっ子体質も憂鬱の種だが、それ以上にサマラを悩ませているのは周囲の反応だ。
これほどの迷惑を連日かけていれば周りからはさすがに疎まれそうなものなのに、研究所の人間は見習いも所員も皆、リリザにとても好意的なのである。
ドジっ子を補えるほどリリザの性格が良いとは思えない。彼女は失敗をしたあとも申し訳なさそうに謝るでもなく、『またやっちゃった。あーあ、あたしってほんとドジ』と唇を尖らせていじけるだけなのだから。