転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました

取り繕うように微笑んだサマラを見て、ディーが安堵したように手を下ろす。そして「席に着きなさい。もし具合が悪くなったら、無理をするんじゃないぞ」と優しい言葉をかけてから、教壇に立った。

サマラも慌てて自分の席に戻って腰を下ろす。チラリと後ろを見たら、リリザも席に着いていた。特に変わった様子はない。

(……びっくりした。一瞬、自分が悪役になってリリザに意地悪したような錯覚がした。破滅エンドの心配しすぎてるせいかなあ)

教壇ではディーが今年入所した見習いたちに挨拶をし、これからの予定を職員が説明している。
けれどサマラはどうにもさっきの恐怖が消えず、ずっと上の空だった。

――そのせいでサマラは気づいていない。
教壇に立っているディーがサマラの隣に座るレヴに視線を向け、一瞬、忌々し気に眉根を寄せたことに。



「大丈夫か、お前。ずーっとボケっとしてただろ」

気が付くと職員の説明も終わり、移動時間となっていた。すっかり考えに耽っていたサマラは、レヴに声をかけられようやく今が何の時間だったか思い出す。

「え? あっ! いけない! えっと、次どこへ行けばいいんだっけ?」

入所初日だというの全く話を聞いていなかったことをすかさず自省し、サマラは肩を竦め恥ずかしそうにレヴに尋ねる。そのときだった。

「ねえねえ! あなた、もしかしてさっき私を助けてくれようとしたの?」

サマラのもとへやって来たリリザが、にこやかに話しかけてきた。近づきたくなかった相手からの急接近に、サマラはドキッとする。

「え……ええ。でも所長が手を貸してくださったから、必要なかったみたい」