悠哉が笑顔でいう。

「......ありがとう」

この笑顔を近くで見られるのも最後かもしれないな。

「ホントに忙しかったよな」
「そうだね、文化祭覚えてる?」
「ああ、忙しすぎて高校の先輩がキレたやつ。あれマジでこわかったー」

他愛もない話をしながら、私は彼の顔から目がはなせなかった。

笑うとくしゃっとする目も、意外と長いまつげも、サッカー部で日に焼けた肌も、ほほのほくろも、いっつもついてる寝癖も。

「会長、よく2年間もこんな生活してたよな」
「慣れたら楽しいよ、大変だけど」

だよな、と笑うその顔も。


今日で見納めだから。


「でも、サッカー部と生徒会両立してたのすごいよね」
「どっちもやりたかったから。部のコーチからも言われた、それ」

同じ制服を着た沢山の生徒たちの中で、彼だけ輝いて見えるのはなぜ?

答えなんてとっくに出てる問いを自分に投げ掛けてみたり。

駅までの7分間なんてあっという間だ。

スーツ姿のおじさんたちと制服姿の生徒たちでにぎわう駅前。タバコの臭いと、一日が終わるときの空気と、生徒の陽気な笑い声が混ざった繁雑な場所。

たむろする生徒たちにまぎれて、私たちも何となく立ち止まる。

話すことなんてもうなにもなくて。だけど、もっと一緒にいたくて。喧騒のなか、私と彼の間には沈黙が落ちる。

そろそろ帰ろっか。うん、じゃあね。

その後に、もう「またね」はないことを、痛いくらい知っているから。

「......会長、」

「......なに?」