彼との食事は彼を改めて知るちょうどいい機会だった。
彼の好きな色は緑で、彼女にするならよく笑っていて好きなものが似ている人がいいということも。
そして何より、
『え!華音さんってクラシック好きなの?』
「うん、私中高と吹奏楽部で大学に入ってからも楽団入ってたから」
『何の楽器してたの?』
「フルート、横笛みたいな管楽器だよ」
『フルートか!綺麗な音色だよね』
「川村くん分かるの?」
『自分は音楽できないけど、興味があって少し勉強したんだ。音くらいは聞き分けられるよ』
「すごい!」
意外なところで共通点をみつけたのだ。
『俺周りにクラシック好きな人あんまりいなくて、
だからもし良かったら今度一緒にコンサートとか行かない?』
「え!行きたい!」
『やった!ありがとう楽しみ!』
次回のデートの約束まで決まってしまったのだ。
それからは、少しあからさますぎることなんてなりふり構わずに、自分の変身計画を遂行していった。
川村くんに対するアピールも忘れなかった。
変わる度に後輩からは褒められて、取引先の担当にも驚かれた。
そして、地味だった私が少しずつ女の子に変身していた時に、新入社員の歓迎会が行われた。
今までは端っこに空気のように息を潜めていた私だが、
なぜだか今年はそういうわけにいかなかった。
《森田さんって、好きな人いるんですか?》
「え?」
《急に綺麗になっちゃって、男性社員みんな森田さんのこと意識してますよ?》
「いや、さすがにそれは言いすぎだよ田中くん」
他部署であまり関わりのない後輩の田中くんが、何故か私の隣の席から離れないでいる。
《俺、結構本気っすよ?誰よりも》
「…うん?酔ってる?」
《酔ってるのは森田さんでしょ?顔真っ赤》
そう言って私のほっぺに手を当ててくる。
…どうしよう、完全にロックオンされた。


