「じゃあ、簡単に取れないんじゃないの?
ぬいぐるみは好きだけど、別にここにあるものじゃなくても……」


それに片桐くんの財布にも負担がかかるし、と付け加えた。


「雨音って、やっぱり真面目だね。じゃあ、俺が雨音にプレゼントしたいって理由でも駄目?」


「……っ」


そんなのズルい。


「もっと甘えることを覚えなきゃ。でも、他の男にするのは禁止だよ。それと、ここでは危ないから俺から離れないこと。わかった?」


「わ、わかった」


男らしい顔で、反則的すぎるセリフ。


片桐くんは女の子がどう言ったら喜ぶとか、こんなことをしたら照れるとかわかってる。


わかった上での行動だからタチが悪い。


私には、初めてすぎることばかりだから。


というか、年齢=恋人いない歴なんだから、経験がなくて当然なんだけど。


「片桐くん、こういうこと今までの子にもやってたの?」


ズキッと痛む胸を押さえながら、私は勇気を出して聞いてみた。


普段ならこんなこと言わないのに……。


「今までの子?あぁ……恋人のことか。
付き合ってたけど、こんな風に優しくしたのは雨音が初めてだよ」


「え……それ、嘘だよね?」


正直、信用出来なかった。


だって、片桐くんは学校の中でもチャラ男で通っていて何人もの彼女がいたわけで、これが初めてなんて、とてもじゃないけど思えない。


「嘘じゃないよ。恋人はたしかによくかわってた。けど、みんな俺の顔が好きって言ってたんだ……中身を見てくれる人なんていなかった」


その表情は、すごく悲しそうで……。
いまにも消えそうな、そんな横顔。