玲奈は朝食を摂るため自分の部屋から1階にある食事スペースへと移動した。

朝食の用意がされている部屋の戸を開けると、すでに見知った二人が食事を始めている。

「おはようございます。桃香さんお兄ちゃん」

二人は玲奈に気がつくと優しく微笑んだ。

「おはよう。お前まだその格好続けるのか?かわいい顔が隠れてもったいない」

玲奈の地味な格好が気に入らないお兄ちゃんは、毎朝のようにため息をつきながら眉を寄せる。

私のお兄ちゃん一条大我(いちじょうたいが)は三十歳で一条グループの副社長で時期社長。少しシスコン気味で、こんな地味な私をかわいい、かわいいと言ってくれる。

そんなお兄ちゃんの隣でニコニコしているのはお兄ちゃんの奥さんの桃香(ももか)さん。

「もう、大ちゃんいいじゃないの。玲奈ちゃんがこの格好が良いって言ってるんだから、女の子にはいろいろあるのよ」

小柄で可愛らしい容姿の桃香さんは毎日のように玲奈のフォローをしてくれる。

ああ……お兄ちゃんなんて良い奥さんを貰ったの!

心の中で呟いていると、後ろから声がかかった。

「みんなおはよう」

後ろから現れたのは私の父と母。一条孝史(いちじょうたかし)と一条玲子(いちじょうれいこ)だ。父は母の腰に手を添えエスコートしながら席へと着いた。二人とも50代とは思えないキラキラな容姿をしていて、母に至っては30代と言ってもいいほどの美魔女っぷりだ。

「「「おはようございます。お父様、お母様」」」

三人の元気な姿に頷くと、席に着いた孝史と玲子も食事時を始めた。楽しく朝食を食べ終え、食後の紅茶とコーヒーが運ばれて来ると、孝史が重々しい口調で話し出した。

「今日は会議が長引きそうなんだ。大河と私は会社で夕食を済ませるから」

「そんな……今日は一緒に夕食が食べられないの……寂しいわ」

そう言ったお母様の頭を、お父様は優しく撫でた後、二人は見つめ合い、目で会話をしている。

それはいつもの光景であるが、子供達の前ではやめてほしい。この二人いつまでたってもラブラブで、30歳と26歳の子供がいるとは思えない。

ふと隣を見ると、これまた同じように、兄夫婦がいちゃラブ状態だった。

重々しい口調で話し出すから何かと思えば……

帰りがいつもより遅くなるだけじゃない。

「はぁーー」

回りに気付かれないよう深くため息をついた。

この調子じゃ、出張や視察で一泊にでもなったら大騒ぎだわ。まあその時はお母様も、桃香さん
もついて行くに違いない。

考えただけで頭が痛くなってくる。