当日、私のそわそわは最高潮に達していた。

上下とも新調した服を着て、毛先も少しだけ巻いた。いつもよりヒールは高め、リップにもほんの少しグロスをのせている。

怜は仕事――映画の舞台挨拶――から直行ということで、夕方、いつかのように駅前で待ち合わせ。

夏休みシーズンで人が多そうだからとあえて郊外の映画館のチケットを取ったけれど、やはり若者は多い。
身バレだけは絶対に避けなければ、と思いつつ、いつも通りアプリのタイムラインを眺める。

待ち合わせよりだいぶ早くついてしまったので、この時間を使って映画の反響チェック。心の準備をしておかなければならない。

原作は映画のあとに読む。今日はしっかり楽しみたい。先入観があるとなにかと散漫になってしまいそうだったから。
隣に主演の怜がいるのに集中できる保証はないけれど。

……それに、どうやらキスシーンなんてものもあるようで。


やっぱり、心の準備がいる!


考えただけで心臓がバクバクしてしまう。なぜかはわからなかったけれど。
多分兎束くんや茶川さんのそういうシーンを見てもきっとこうなる。それだけは間違いない。


だから特別な意味合いは何一つとしてないのだ。

夕日に焼かれじんわりと汗をかく。
水分補給のために取り出したペットボトルは突如横からひったくられた。