バイトがあるから、と足早に片付けはじめる若葉にさよならをした。

他の人もちらほら教室を去り始めている。
次の授業の人が来る前に早くでなければ。

私は次の時間空きコマだから急ぐ必要はないけれど、それでもお腹空いたし、早く学食に行きたい。


「ねえ」


斜め後ろからの声掛けが自分に向けられたものだと気づくのに少々時間を要した。

凛とした声。どこかで聞いたことがあるような、知らないような。


「ご飯食べよ」


振り向いて、思わず手に持っていた筆箱を落とす。中身がバラバラと散らばった。


人間、驚きすぎると声が出なくなるものらしい。


声をかけてきたのはあのトンデモ美男子で、そしてなぜか眼鏡を外していた。

その姿を見間違えるはずがない、


常に怜と冷戦状態である、兎束壇その人だった。