超特急の支度で何とか五分前に目的地に到着した。
しかし人混み、怜の姿が見当たらない。


『着いた。どこ?』


メッセージを送り待機。周りでは私と同じく待ち合わせであろう人たちが、みんなスマホをいじっていた。

やっぱり渋谷はおしゃれな人達ばっかりだ。私ももう少し吟味してくればよかったと後悔する。

その上意外と今日は肌寒い。

ワンピースじゃなくて、軽めのニットにでもすればよかったかも。


それにしても、既読もつかない。

どうしたのかな、なんて思いつつSNSを確認していると、視界が少し暗くなった。

怜かと思い顔を上げるも、影の主は全く見覚えのない男性二人。


「え、あ」


まともに目を合わせてしまった私は一瞬で体のこわばりを感じる。

男たちは気味の悪い笑みを浮かべていた。


「今、ひとり? それとも誰か待ってるの~?」
「連絡先交換してよ、俺もそのSNSやってるからさ」
「いや、あの」


困らせてんぞ~と後ろから冷やかすような声。
仲間だろうか、どちらにせよ私で遊ばれていることはひどく気に入らない。

気に入らないけれど、怖い……っ。


「どけ。オレ様のツレだ」


ドン、と鈍い音。
男は思いっきりよろめいた。どうやら体当たりされたらしい。


「れ、怜!」
「行くぞ」
「どこに?」
「いいから黙ってついてこい」


そのまま腕を引かれ、私は戸惑いながら後ろをついていく。

振り返ると体当たりされた方の男が腰を抑えてうずくまっている。

集まった仲間たちも含め、全員がこちらを睨んでいた。

その眼光の鋭さに気圧されて、私はなにも見なかったことにした。

そして忘れることにした。


「ったく、来るのはおせーしなに絡まれてんだよ」
「ごめん、これでも準備頑張ったんだよ。ありがとね」
「仕方なくだよ、し・か・た・な・く」


悪態をつきながら前を歩く今日の怜はとにかく全身真っ黒だった。
おしゃれ眼鏡と黒マスク、黒いライダースジャケットに細身の黒パンツ。金髪がより映えている。

率直にかっこいい。


そうだ、怜はアイドルなんだよ。
かっこいいことなんて知っていた。


私は今一度自分の服装を見る。

大丈夫かな、こんな格好で。
やっぱりもっと吟味してくればよかった。


「ワンピース」


こちらを一瞥もせず、怜は続ける。


「似合ってる」
「あ、ありがとう」


私の不安が読まれたみたいだった。それでも悪い気はしない。

ほんの少しの気がかりも払われたところで、私は調子が出てきた。


「怜さ、今日の服装珍しいね」
「あー、昨日のロケの衣装もらった」
「ロケ?」
「さっき帰ってきて、そのままお前のこと呼んだんだよ」
「え、休んでないの?」
「いいだろ。帰ったら寝るし、少しぐらい付き合え」


別に付き合いたくないわけじゃない。
仕事帰りのままで出かけるなんて、体が心配だったのだけれど。

まあ、完全に体育会系の人間だし、大丈夫か。


連れてこられた先は映画館だった。


「何見るの?」
「これ。さっき先輩からチケット貰ったから」


そう言い残してさっさと受付に行ってしまう。

私が観たいと思っていた、少女漫画実写化のがっつり恋愛映画。
事務所の先輩が主演をやっていたけれど、そんな、チケットもらえるものなのか。

改めてすごい人と知り合ってしまった。

いや、よく考えたら知り合うどころか、一緒に住んでるんだった……。