時森沙良、ぴちぴちの大学一年生。今日もバイト帰りでヘトヘト。

夏休みはほとんど田舎の実家で過ごした。
なので余計、夏の終わりとは言えど、東京の気候が湿っぽく感じる。

夕立ち後の肌にまとわりつくような空気。歩くだけで体力が持っていかれた。


もともと体力がある方ではない。さっさとシャワーを浴びて、テレビ録画して寝よう……。

そう決意して自宅の鍵を開けた。


「帰ってきたか! さっさとメシ作りやがれ!」


……考えたくもないけれど、王様アイドルと同居していたのだった。


・・・


「なんで私にご飯作らせるかなあ。怜が作った方が美味しいのに」
「んなめんどくせーことやらねーよ。まずくてもお前が作ればいい」
「……今日のお風呂掃除、やった?」
「今日はオレ様の当番じゃねー」
「あんたの当番だよ!」


正直そんな気はしていたけれど。というか、全く期待していなかったけれど。

仕方なく速攻でチャーハンを作ることにした。ベーコンを炒めながら生野菜を切って、生野菜サラダを作る。
野菜ジュースも飲めば、明日の肌の調子はバッチリだ。

出来上がったチャーハンをよそって、テレビ鑑賞中の彼の前に置く。


「どうぞ」
「おせーよバーカ」
「……」


毎日ここにいるわけではない。でも週に2,3回、帰ってきたら勝手にいるし、いたら横暴だし、決めたこと守らないし、もう、許せない……!


「いい加減にしてよ!」


今まさに食べようとしている彼の目の前からお皿を取り上げた。


「おい、オレ様のチャーハンになにすんだ!」
「あなたのチャーハンじゃありません! 私の作ったチャーハンです! いただきますぐらいはいいなさいよ、バーカ!」
「オレ様の真似すんじゃねーよ!」

「誰があなたの真似なんかしますか! 一人称オレ様? 礼儀もなってないあなたに真似したい要素なんか一つもないし!
グループの他のメンバーは礼儀正しいのに、怜って本当に恥ずかしい人ですね!」

「……オレ様があいつらより恥ずかしいだと?」
「あったりまえでしょ。大体働かざるもの食うべからずよ。掃除もしないくせに、私の作ご飯食べられると思わないでくれる?」
「……チッ」


メンバーを引き合いに出した瞬間にあっさりと引く怜。そのままお風呂掃除に向かった。


ちょろい。


「……はあ」


日頃の恨みだ。

彼のせいで莫大に食費は増えた。
それは三分の二払ってもらっているけど、明らかに私が食べてない分まで私持ちだし。

……貧乏大学生にこの人との同居は荷が重い。

テーブルを片付け、二人分のチャーハンとサラダ、野菜生活を置く。

そのままぼーっとテレビを観ながら怜を待っていた。


「洗ってきたぞ。これでいいだろ」
「うん、ありがと。召し上がれ」
「……イタダキマス」


感情が微塵も感じられなかったが、及第点としよう。私は寛大な女の子なのだ。


「……ん、おい、お前、これ美味い」
「本当? 私の手料理なのに? ……え、おいしい!」
「いつもこのレベルならな」
「それは、そうだね」


それでも成長が見られたからいいのだ。

少なくとも、君が初めて美味しいって言ってくれたぐらいには。