瑞穂と二人で一ノ瀬さんのデスクに行く。

「一ノ瀬さん、早退なさったらどうです?」

「昨日の雨ですね。風邪をひいたんですよ」

バスローブに着替えさせたが、全身が濡れていた状態ではそれも意味がなかったのかもしれない。

送ってもらったことがタイムロスになった。無理にでも帰せば良かった。

「薬も飲んだから大丈夫だろう」

それにしても顔色が悪い。

瑞穂は、私の腕を肘でつついた。

きっと、もっと強く言ってと言っているのだろう。

「一ノ瀬さん、最近休みも取られてませんでしたし、もう限界ですよ。本当に怠そうです」

「一ノ瀬さん」

「……分かった。心配かけてしまって悪いな……早退させてもらうよ」

「よかった。後は、大丈夫ですから」

「ありがとう」

私は、一ノ瀬さんの帰り支度を手伝い、瑞穂はタクシーを呼んだ。

帰ることになった一ノ瀬さんは、気が抜けたのだろう。

デスクから離れて応接セットのソファでぐったりと座っていた。


「ちょっとすみません」

一ノ瀬さんの額に手をあてると、薬を飲んだと思えない程、額が熱かった。

一人で帰れるだろうか。タクシーに乗せてしまえば大丈夫だろうけど、意識を失ったりしないか心配だ。

「瑞穂、一ノ瀬さんを送ってきてもいい? 約束の時間にはちゃんと行くから」

「だいぶ具合が悪そう?」

「凄い熱、少し手をあてただけでも高いのが分かるの」

「分かった、送ってあげて」

「ありがと」

自分の支度をして、一ノ瀬さんの荷物を持つ。瑞穂が、タクシーが来たことを教えてくれた。

「一ノ瀬さん、行きますよ」

私が一ノ瀬さんの身体を支え、私と一ノ瀬さんの荷物を瑞穂が持った。

周りのスタッフも心配そうに見ている中、事務所を出た。