「おはよう、昨日は休みをありがとう、何かあった? アレ以外で」

出勤すると、また一ノ瀬さんのデスクに人が集まっていた。休み明けで出勤すると、問題がある。

「おはよう。アレは、モデルの清香がいつになったらショーや雑誌のモデルの仕事がもらえるのかって、一ノ瀬さんに詰め寄ってるの」

「そんなこと一ノ瀬さんに言ったって、本人の問題じゃない」

「そうは思ってないみたいよ」

瑞穂と椅子を横並びにして、騒動を見物する。話しを聞いていると、内容はこうだ。

「ネットショッピングのモデルとか、企業のワンショットとか、そんなのばかりじゃないですか。私はもっと出来ますし、出来るはず。なんでこんな仕事しか来ないの! この身長とスタイルだったら、文句ないはずじゃない」

自分に来る仕事に納得がいっていないようだ。

こういう仕事を積み重ねて、メジャーになって行く人も多いのに、清香は文句ばかりだ。

確かに、デビューしたきっかけは、日本人離れしたスタイルだった。モデルになったことが無いから分からないけど、何処がいけないのだろう。

モデルなんだから、スタイルさえ多少性格が悪くたって起用されると思うのだが、それは素人の考えなのか。

「だからまだ早いからだと言っているだろう?」

気の弱そうなマネージャーが説得してもダメに決まっている。

「自分は努力をしている、勉強をしていると思っているか?」

一ノ瀬さんが落ち着いた口調で清香に聞く。

「もちろんですよ、食生活、体力づくり、エステ。モデルとして必要だと思うことは実施しています。レッスンだって手を抜いたことは一度もないわ。一ノ瀬さんだったら分かってくれますよね。モデルだったんだから」

「これを見て見ろ」

デスクに広げたのは、清香の写真だ。

「客観的に見てどうだ?」

「どうだって、良いと思います」

「俺は違う」

「どういうこと?」

「モデルと言うのは、その服の魅力を最大限に活かし、そしてモデル自身の個性も消さないことだ。この写真全部見て何か気が付かないか?」

「え……?」

「自分のチャームポイントだけを良く見せようとしてるのがありありと分かる。このドレスは、腰に手をあててこそ、綺麗なラインが出せる。だが、見て見ろ。清香は足の長さがチャームポイントだ。前に出してどうだと見せつけている。それでは可憐で清楚なこのデザインのドレスが、気の強い服に写ってないか?」

「……」

「デザイナーが何を得意として、何を見せたいか読み取る力がない。美しく見せる為にどのようなポージングをしたらいいか、そこに自分の個性をどうやってプラスしていくかがまるでなっていない。並べてよく見て見なさい。全部同じだ」

清香は、一ノ瀬さんの話に何も反論することが出来なかった。

清香は抜群のスタイルなのに、小さな仕事しか来ないのは不思議だと思っていたけど、こういうことなのか。勉強になる。

「キャットウォークも必要だが、もっと服の勉強をしなさい。目指すモデルもいるだろう? その動画でも何でも見て、もっと勉強をする。努力すれば自然と仕事はやってくる。分かったか?」

「……はい」

隣に立っているマネージャーは残され、清香は来た時の勢いはなく、しょんぼりとして帰って行った。