(もうこれ以上、考えるのは止めよう。) 

こんなことを調べ、こんなことを考える為に、俺は会社に来てるんじゃない。達也は取り敢えず、そう自分に言い聞かせた。今はそうするしかなかった。


そして、帰宅。かなり憂鬱な気分で、扉を開いた達也を


「お帰り〜。」


満面の笑みで出迎えた鈴は、そのまま抱き着いて来る。


「今日もお疲れ様。」


そう言って、唇を重ねて来た鈴。お帰りのキスを終え


「お夕飯、出来てるよ。早く着替えて来て、食べよ。」


と言うと、軽やかな足取りでキッチンに戻って行く。


並べられた料理は、いつも通りの品数で、味もいつも通り。そこに手抜きは感じられない。


夕飯を共にしながら、やはりいつも通り、いろんな話をして、鈴は楽しそうに笑っている。


夕飯作りが鈴の担当の日は、後片付けは達也の仕事。終わるまで、一人ソファで寛いでいた鈴は、達也が洗い物を終え、彼女の横に腰掛けると、待ってましたとばかりに、身体を擦り寄せて来る。


「達也、好きだよ。」


まっすぐ自分の目を見て、そう囁くように言う妻に、笑顔を返しながら、達也は彼女を抱き寄せる。


そしてイチャイチャ。そこには、いつもと変わらない妻がいた。少ししてから


「昨日はごめんね。」


という鈴の言葉に、思わずドキリとする達也。昨日、男と会っていたことを謝られたのかと思ったが


「お誘い、断っちゃったから。でも今日は・・・約束したもんね。」


そう言って、少しはにかんだように微笑む鈴。


(そっちのごめんか・・・。)


達也は、ちょっと拍子抜けするが


「明日の準備だけして来ちゃうから、先にお風呂入って来て。」


そんなことを可愛く言う妻に、達也の胸はやはりときめく。


そのときめきは、しばらくして鈴が一糸まとわぬ姿で、自分のベッドに滑り込んできた時に、最高潮に達した。


「鈴。」


妻の名を呼び、有無を言わさず、その身体を自分の下に組み敷く達也。


「達也・・・。」


密着した身体、見つめ合う目と目。情感は一気に高まる。今の達也の中からは、昨日から抱えていたモヤモヤなど、雲散霧消していた。


「あっ。」


夫の為様に、可憐に反応して行く鈴。そこにいるのは、いつも同じ、愛しい妻だった。


(鈴・・・。)


この妻が、俺を裏切るはずがない、裏切ってるはずがない。それを確認するかのように、達也は鈴を強く、激しく抱いた。