達也の姿が消えた扉を、しばらく言葉もなく見つめていた鈴は、ハッと我に返ると、急いで後片付けをし、明日の準備を終え、自分も風呂を済ませ、寝室に入った。


既にベッドに入っている夫の横に、鈴は身体を滑り込ませる。2人はダブルベッドではなかったが、シングルベッドを2台くっつけて、使っている。


鈴は、自分に背を向けている夫に、身体を擦り寄せると


「達也、どうしたの?何か怒ってるの?」


と耳元で囁くように尋ねる。


「いや、別に。」


と背を向けたまま、答える達也。


「達也、ちょっと変だよ。ねぇ、お願いだから、こっち向いてよ。」


と懇願するように、鈴が言うと、達也は突然、身体を起こして振り向くと、鈴を抱き寄せ、その唇を奪う。


(あっ・・・。)


舌と舌が絡み合い、やがて達也の手が、鈴のパジャマをまくり上げ、風呂上がりで無防備になっている柔らかな胸を揉みしだき、その敏感な頂きを転がし、そして乱暴にひねり潰す。


更に、別の手が、鈴の敏感な秘所に割り入って来た時


(あっ!)


鈴はあられもない声を上げようとするが、その唇は相変わらず、夫の唇を重ねられたまま。


(ああ、達也・・・。)


もはや夫にベッドに押し倒されるのを待つばかりと思ったその時、突然その手の動きは止まり、鈴の身体は突き放されるように夫から離された。


「たつ、や・・・?」


何が起こったのかが、理解できず、半ば呆然と、自分を見上げる鈴に


「明日は仕事だから。じゃ、おやすみ。」


そう言うと、達也はまるで何事もなかったかのように、また鈴に背を向けて、横になった。


(そんな・・・。)


すっかり、その気にさせられたのに、完全にハシゴを外された形になり、鈴は戸惑うしかない。


(達也、酷いよ。いくらなんでも、それはないよ・・・。)


しかし、その言葉を口に出すことは出来ずに、鈴は夫の背中を涙目で睨むことしか出来なかった。


翌朝。前夜の夫の仕打ちに、かなりむくれている鈴に対して、達也は特に普段と変わらぬ様子で接して来る。


結局、鈴もいつまでもむくれているわけにもいかず、いつも通り、肩を並べて出勤した。


それから、達也の態度は付かず離れず、という言い方は少し変かもしれないが、冷たくなるでもなく、でも甘々モードには決してならない。


テレビを見ている横に、ちょこんと座れば、肩くらいは抱いてくれるけど、どこか心がこもってないように感じる。


ベッドでちょっかいを出してみても


「明日は仕事だから。」


その言葉で、全て終了。


「達也、一体どうしたの、何があったの?」


鈴は改めて尋ねるけど


「何でもないよ。おやすみ。」


笑顔でそう答えて、軽く触れるだけの、おやすみのキスをくれると、達也はベッドに身を横たえた。