過ぎてみれば、正月休みもあっという間。また、慌ただしい日々が戻って来る。


朝は仲良く同伴出勤の達也と鈴だが、社に入ると所属する部が違う為、ほとんど顔を合わせない。昼食もあまり一緒の時間になることはなく、たまに鉢合わせしても、お互いに同僚と食べ、わざわざ夫婦同席することはまずない。


同じ会社に勤めているが、お互いが今、どんな案件を抱え、どんな仕事をしているかは、ほとんど把握していない。特に鈴の所属する営業部には、内部と言えども、迂闊には漏らせない事項が少なくない。その辺の機微は、もちろん達也も心得ているから、彼女の方から話してくる以上の詮索はしない。


お互いが業務に真摯に、専心に取り組んでいることは、よくわかっている。そういうパートナーへのリスペクトの気持ちは常に2人共持っている。


帰宅時間は、まちまち。家事の分担は決まっていて、食事を作る当番も決まっているが、お互いの勤務状況によっては、そこらへんは臨機応変に。夕食はある程度遅くなっても、基本的には一緒に摂る。


ただ、昨年の特に後半から、暮れにかけての鈴の多忙により、そのル-ルも崩れることが増えてしまった。しかし、それも一段落したようで、遅くなることが全くなくなったわけではないが、彼女の帰宅時間はだいぶ早くなり、達也もホッと一安心というところだった。


そして週末は、なかなか平日では叶わない、2人きりの時間を取り戻すかのように、寄り添って過ごす。どこへ出掛ける時も、2人の手が離れることはない。


そうして英気を養い、また週明けからビジネスマンとして力を揮う。そんなありきたりかもしれないが、穏やかで幸せな毎日がずっと、続いて行く。そう思っていた。だが・・・。


達也の様子がおかしい。鈴がそう気づいたのは、数日前のことだった。


今までは、自分が甘えれば、デレッと表情を崩して抱き寄せてくれたのに、戸惑った表情を浮かべて、スッと身体を避けるような仕草を見せるようになった。


この日は、夕食を共にしたあと、鈴が、近々日帰り出張があることを、夫に告げた。すると一瞬、息を呑んだように自分の顔を見た夫は


「そうか、大変だな。気をつけて行って来いよ。」


とは言ってくれたものの、それはまるで通り一遍のお義理の台詞にしか聞こえなかった。そして


「じゃ、先に風呂、入らせてもらうな。」


と言うと、ダイニングを出て行ってしまった。


「達也・・・。」


そんな夫の後ろ姿を、鈴は不安げに見送るしかなかった。