12月、師走となり、年の瀬が徐々に近づいて来て、仕事もプライベートも慌ただしくなる時期。


鈴の帰りは、相変わらず遅い。仕事だけではなく、この時期、取引先との宴席なども増える時期。いや、それも営業部にとっては立派な業務の中に入るのだろう。


昨年までは、営業事務がメインだったから、取引先とのそういう付き合いとはほとんど無縁だった鈴。決して酒が好きでも、強くもない妻が大変な思いをしてないだろうか、達也は心配になる。


というのも、母親から気になる電話が入って来たからだ。12月に入ってすぐのことだった。


『鈴ちゃんは大丈夫かい?』


「えっ、どうしたの、突然?毎日元気に、仕事に行ってるよ。」


と答えると


『なら、いいんだけど。この間、元気のない声で、「私、仕事辞めようかと思うんです。」って、相談の電話があったんだよ。』


との佐知子の言葉に、達也は驚く。時期を聞くと、温泉旅行でリフレッシュ出来たから、また改めて頑張ると張り切ってた直後のことだった。


『「このところ、仕事が忙しくて、妻として、達也さんを支えてあげられてないし、逆に迷惑ばかりかけてしまって、心苦しい。すれ違いも増えて、子供もなかなか授からなくて、お義母さん達に孫の顔もお見せ出来ない。思い切って、1回家庭に入って、妻としての役目をキチンと果たせるようになりたい。」なんて言って来るから、びっくりしちゃってさ。』


「・・・。」


『お父さんもいたから、2人して、そんなに思い詰めないで、頑張りなって励ましたら、少しは元気になって。「わかりました。この電話のことは、達也さんには内緒でお願いします。彼に心配掛けたくないんで。」って言うから、今まであんたには黙ってたんだけど、やっぱり心配になってさ。』


鈴は義両親となった高也と佐知子に懐いていた。自分の実家より、達也の実家に行く方が喜ぶくらいで、達也もありがたいと思っているのだが、それにしても1度、自分に相談して、結論が出たはずのことを、わざわざ自分の親にまた相談した鈴の態度が、相談したことを内密しようとしたことを含めて、達也は釈然としなかった。


取り敢えずわかった。母さんから話を聞いたことは黙ってるし、俺もちゃんと気に掛けてるからと言って、電話を切ったが


(2人なら当面、俺の給料でやっていけないこともない。だが、子供が出来て、家族が増えたり、いずれマイホームを建てることを考えれば、正直苦しい。そんな現実は、鈴だってわかってるはずなのに・・・。一体どうしたのだと言うのだろう?)


頑張り屋の鈴が、ここまで音をあげようとするのは、単に仕事がキツいということではなく、何かトラブルでも抱え込んでいるのかもしれない。


達也の心配は募る。