その日も気持ちの良い、快晴だった。目覚ましを止め、ベッドから起き上がり、カーテンを開いた達也は、差し込んで来る眩しい陽に、思わず目を細めていた。


(さぁ、今日も1日の始まりだ。)


1つ気合を入れて、達也は寝室を出た。


妻、鈴との結婚生活は3年目を迎えていた。3年目の夫婦はまだまだ新婚さんと呼ばれる一方、「3年目の浮気」なんて歌が、昔流行ったように、夫婦の倦怠期、危機の始まりの時期ともされている。


しかし、達也と鈴には、そんな心配は全くの無縁のようだった。劇的な再会から、順調に愛を育み、多くの人達から温かい祝福をもらって門出した2人。


会社でも有名なおしどりカップル。そのアツアツぶりは、周囲がすっかり当てられ、呆れるほどであった。


特に鈴のデレっぷりは凄まじく、仕事中はもちろん、節度を持って行動しているが、それが終われば、達也に甘える姿を隠そうともしなかった。 


そんな鈴を達也は照れ臭そうに、でも優しく受け止め、仲睦まじく一緒に退社していく姿は、一種の名物になっていた。


「鈴ちゃんは、なんであそこまで神野にゾッコンなんだろう。」


やっかみ半分に、そんなことを言う人間もいるほどだった。


この日は、日帰り出張で、先に家を出た妻から遅れること、約1時間。達也も自宅をあとにした。


社に着くと、既に先に出社していた同僚や部下と挨拶を交わし、デスクに腰を掛けた達也に


「係長、おはようございます。就業時間前に、申し訳ありませんが、この書類に印鑑をお願いします。」


と声を掛けて来たのは、岡田亜弓。


「おはよう。朝一で課長に提出する奴だろう?そんなの気にするな。」


達也は気軽に応じる。新入社員時代に、面倒を見た亜弓ももう入社4年目。信頼出来る部下になった。


そして、31歳を迎えた達也。私生活の充実ぶりが仕事にも好影響を与えているのだろう。主任から係長と、順調なステップを歩んでいる。


「俺は切れ者なんて言葉には、ほど遠いからな。みんな、よろしく頼むよ。」


なんて周囲には、漏らしているが慎重かつ堅実な仕事ぶりは、上からも下からも信頼が厚かった。


達也の勤務する総務部は、いわば会社の縁の下の力持ち。会社の業務が円滑進むように、目を配り、手配を整えるのが仕事。達也向きの部署だったかもしれない。