民法には、未成年者の婚姻には、親権者の同意が必要と明記されている。逆に言えば、成人の婚姻は、当人同士の合意があれば、それであとはなんの問題もない・・・というのは、やはり建前だ。


本人達がいくら愛し合っていても、様々な障害から、結婚に至らないままで終わるカップルは決して稀ではない。


障害の最もポピュラーなものは、どちらか一方、もしくは双方の親の反対だ。本人がいくら生涯のパートナーと見込んでも、親の目からは、危うく見える。あるいは地方によっては、「家柄の違い」などということが問題になることが今もある。


およそ1年前、挨拶に訪れた達也に対して、鈴の母親の良子は、遠慮会釈ない言葉を浴びせかけた。


まして今回は、結婚の許可を求める為の訪問。簡単に話が終わるとは、到底思えない。現に、鈴が達也の来訪を告げると、良子の表情は険しくなった。


「鈴、社会に出て3年目で、結婚はまだ早いんじゃない?」


「そんなことないよ。高校や大学時代の友達だって、もう何人か結婚してるし。だいたい、お母さんだって、お父さんと25歳で結婚したでしょ。」


「当時は特に女は、早く結婚しろってプレッシャーもあったし、今と時代も違うのよ。それにハッキリ言って、急いで結婚して後悔してるし。」


「お母さん。」


「あなたのお父さんとは、大学時代から付き合って、お互いそれなりにわかり合って結婚したつもりだったけど、いざ結婚してみたら、全然見込み違いで幻滅させられた挙げ句に不倫よ。つくづく早まったと思うわ。」


「・・・。」


「この前、お会いして、達也さんが悪い人でないとは思っているけど、なんとなく頼りなさそうだし、鈴を託せる人には思えなかった。」


「酷い。あんな1時間やそこら会っただけで、達也さんの何がわかるの?達也さんは優しくて、誠実で、とっても頼り甲斐がある人だよ。会社でだって、主任になって、順調に階段を登り始めてる。」


「1時間も話せば、その人の人となりなんて、わかるわよ。」


「でもお父さんのことは何年もお付き合いしたのに、見損なったんでしょ!」


これまで内心で反発を感じていても、母親には従順だった鈴も、今回ばかりは大人しく引き下がりはしなかった。


結婚に全く反対ではないが、もう少し慎重にお付き合いした方が、と言う良子と、2年付き合って、この人こそ、一生を一緒に歩むパートナーだと確信していると言う鈴の意見は全く対立したまま、達也は鈴の家を訪れることになった。